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ツイブロ

求人広告のライターが、ブラック労働や就活、人材業界周辺のことなど、日常のあれこれをツイーっと書き込んでいるブログです。心に残るヘリクツをお届けします。

2月15日のバレンタイン。

日常 日常-ネタ

今週のお題「バレンタインデー」

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とある年の2月。

今年もバレンタインデーが終わった。

 

バレンタインは、思春期の男子学生にとっては内心穏やかではないイベントだ。

 

もらえないのも寂しいけれど、もらってしまったら逆にどうしていいかわからない。あの頃は、チョコと告白をセットのように考えていた。

 

だから驚いた。というか、困った。

 

ぼくがチョコを受け取ったのは2月15日だったのだ。

 

女子に呼び出されたぼくはドキドキしながら後についていった。

案内された先に、もう一人女子がいた。その子がぼくにチョコをくれた。

 

チョコをもらうこと自体驚きなのだが、今日が2月15日であることも重なって軽いパニックに陥っていた。何もしゃべれなかった。とりあえず、「ありがとう」だけは言った気がする。

 

 

その日はまっすぐ家に帰って、すぐにチョコを食べた。

餓えていたわけじゃない。親には秘密にしておきたかったのだ。

 

うけとったのが2月15日であることに、ぼくは不安と戸惑いを感じていた。

早く目の前から問題を消去しておきたかったのである。

 

そんなチョコレートだが、チョコはやっぱりチョコで、とてもおいしかった。いつも食べるチョコよりも上品な味がした。

 

でも、おいしいと思ったら相手を受け入れてしまったような気がして、素直においしいとは思いたくなかった。

 

 

ところで、こんなへたれ学生でも3月14日の存在は知っている。

 

ホワイトデーだ。いまなら、LINEで食事にさそって適当なところで買ったおかえしをサラリと渡すことができるけれど、学生にはそんなズルい手段がない。

 

学校で女子を呼び出して、

二人きりになって、

おかえしを渡す。

 

それだけならまだいいけど、チョコをわたすことと告白をイコールに考えていたぼくは、返事をしなければと思った。

 

はっきり言って、その子のことは好きではなかった。普段、よく話すグループには入っていない子で、そんなに知らない子だった。子ども心に、お断りの返事をするのは気が重かった。

 

というのは建前で、ぼくが気にしていたのは2月15日の件だ。

うじうじと悩んでいた。

 

なぜ2月14日ではなく、2月15日なのか。14日なら告白だけど15日だから違うのかもしれない。いやいや、だったらあんなとこに呼び出して渡すだろうか…。

 

いまなら「2月15日 チョコ渡す 意味」と検索して調べていただろうけど、当時はそんなものなかった。

 

ない知恵をしぼるけれど、答えは全然見つからない。時間だけが過ぎていく。

 

なにをお返ししたら良いかもわからない。

胃が痛い、という感覚を10代にして味わった。

 

 

悶々と日々を過ごすうちに、いよいよホワイトデーが1週間後にせまってきた。

 

何の答えも出ないまま、とりあえずポケットに入るサイズの小さなお菓子を買った。これならいつでも取り出せる。あるいは、そのまま出さなくてもいい。

 

ぼくは、まだ迷っていた。

2月15日の意味がわからず、考えあぐねていた。

 

大人になったいまなら迷うことはないのだろうが、いま思い返してもあれが告白だとしたら、あまりにサイレントすぎる。無言で包み紙をわたされて、その場は解散、である。

 

思春期まっただなかの男子に、あの機微は理解不可能だった。

 

 

3月14日。

 

件の女子に声をかけるタイミングを見計らっていた。

ちなみにノープランだ。なんと返事するかもよく考えていなかった。

とりあえずお返しを渡して楽になりたいと思っていた。

 

ぼくを呼び出した女子をチラッと見るが無反応。

話をしても、あの日の話題は出てこない。

 

薄情なやつだ。

 

とは思わず、ぼくは一気に不安になった。

 

やはり2月15日のあれは、バレンタインとは無関係な行為だったのではなかろうか。だとすれば、ポケットに入っているお返しは何のためのお返しなのだろうか。

 

弱気なぼくはあっさりと、お返しを渡すのをあきらめた。

 

帰り道、急ぎ足で家にむかう。

チョコを受け取った日と同じくらいドキドキしていた。

 

でもいま思えばあのドキドキは、駄菓子屋さんで万引きしようとしたときのドキドキに近い。悪いことをしていると、気づいているときのドキドキだ、これは。

 

 

3月15日。

ポケットにはまだお返しが入っていた。

 

よく考えたら、2月15日に受け取ったのだから、3月15日に返すというのは、変ではない気がした。ありえる展開である。

 

でもだからこそ、ぼくはまた胃が痛くなった。

なぜなら今日一日は悩まなくてはいけない。

 

授業はまったく頭に入ってこなかった。

 

あいかわらず、お友達の女子は無反応だ。

 

せめて「あんたお返ししたの?返事は??」とか言ってくれれば、反応できたのだろうな。何も言われないのが怖かった。

 

2月15日のあの日。

呼び出されたときはドキッとした。

 

実を言うと、ぼくを最初に呼び出した子のことが、どちらかと言えば好きだった。

 

告白されたこと自体が嬉しくて、深く考えないようにしていたけれど、たぶんぼくはチョコをくれた子のことを好きではない。と思う。

 

ただこの感情が、本心なのか、なにかへの言い訳なのか、追い詰められたぼくには、もうよく分からなくなっていた。

 

 

帰り道は、やはり早足だった。

 

しかし、これで良かったのだろうか。

 

2月15日からの1ヶ月間を思い返しながら、とぼとぼと歩く。

いつしか歩くスピードは落ちていた。 

 

家で泣いている女子の顔が浮かぶ。

 

悪いことをした。

でも、好きじゃないので、期待に応えることはできない。

 

昨日のようなドキドキは、もうなかった。

 

静かに歩く。

 

いつも使っているショートカットは使わなかった。

すこし遠回りして家に帰った。

 

 

夕飯までのあいだゲームをしていた。

当時、流行っていたRPGである。

その日はひたすらレベル上げの日だった。

 

台所から母が呼ぶ声がする。

夕飯がそろそろできるらしい。

 

ハンガーにかけてあった制服のポケットからお菓子を取り出して、リビングに向かう。

 

「はい、これ。ホワイトデーのおかえし。」

 

母は、なぜ3月15日なのかは聞かなかった。

笑顔で受け取ってくれた。

 

ぼくのホワイトデーはこうして終わった。