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ツイブロ

求人広告のライターが、ブラック労働や就活、人材業界周辺のことなど、日常のあれこれをツイーっと書き込んでいるブログです。心に残るヘリクツをお届けします。

うつ病で不当解雇された女性が、解雇を受け入れるに至った過程。

レビュー レビュー-映画評 考え方 考え方-人材

ある中小企業の話。

 

うつ病で休職していた女性が解雇を言い渡された。

 

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社長は、女性の復職と賞与を天秤にかけて従業員16名に投票させた。その結果、14名がボーナスを受け取ることを支持したため、解雇はその結果だという。

 

残酷だが、新興国との競争に勝ち抜くため、復職と従業員へのボーナスを両方実現するのは難しいという厳しい現実があった。

 

あえて従業員に投票させたのは、不当解雇あるいはボーナスがなくなることへの反発を抑え込むためだ。社長にとっても苦渋の決断である。

 

解雇された女性は、夫と子ども2人との4人暮らし。夫はレストラン勤務で稼ぎは少ない。共働きでようやく生活を維持しているため、職を失うといまの家に住み続けることはできなくなる。

 

解雇の決定後、仲の良い同僚から電話がかかってきた。投票の際に、事前に主任からの圧力があったと同僚は語る。

 

この事実をもとに女性は社長に直談判。無記名での再投票の機会を得る。過半数の賛同が得られれば、彼女は復職できることになる。

 

再投票までの期日は2日間。

 

自らの復職に投票してもらえるよう、彼女は同僚宅を訪ね歩き、対話を試みる。

 

 

「サンドラの週末」という映画をみた

ご推測のとおり、冒頭の中小企業の話は映画のあらすじだ。

タイトルの「サンドラ」は、解雇された女性の名前。

 

サンドラの週末(字幕版)

そのサンドラを、世界で最も美しい顔100で1位に選ばれたこともあるフランスの女優さんマリオン・コティヤールが演じている。

 

大幅なマイナスからのスタートにげんなりしたが、事情を知れば知るほど目が離せなくなった。結末を見届けたいと思わせられた。

 

重苦しい展開でありながら視聴を続けられたのは、同僚宅を訪問して説得、再投票という全体像が前もって提示されていたからだろう。単純ながらうまい構成だと思った。

 

復職のために同僚宅を訪れているというよりも、うつ病を乗り越えて社会復帰するための試練を受けているかのようだった。1件訪問するごとに気力をふりしぼり、ときに逡巡するサンドラの表情は本物の苦しみに見えた。

 

訪問先では、サンドラを励ます同僚がいる一方で、そうではない者もいる。だが、ボーナスを選択した同僚たちに悪意はない。

 

サンドラ同様に苦しい生活事情があるのだ。浴びせられる厳しい言葉から、彼らの困窮のほどがうかがえる。サンドラを支持する(ボーナスを手放す)ことで、夫婦の仲が壊れてしまった同僚もいた。

 

サンドラは、精神的に追い詰められるたびに泣き言を言ったり、ときには薬に頼りながらも、1件、また1件と同僚宅を訪問していく。

 

ぼくには現実のうつ病のことは分からない。

どんな感覚なのか。どんな気分なのか。

 

感じたのは、患者の自立に薬だけでは不十分で、夫も心の支えになることしかできないということ。周囲の理解だけでは、事態を好転させるまでには至らないのだ。

 

しかし、同僚と対話し、少しずつ投票の約束をとりつけていく中で、サンドラの態度に変化が現れる。最初は用意していたセリフを話すだけだった彼女が、僅かながらも自らの言葉で説得を試みるようになるのだ。

 

そして向かえた投票の日。

 

結果は8対8。

 

当初の14対2から巻き返したものの、過半数には届かなかった。

 

社長室に呼び出されるサンドラ。

 

改めてクビ宣告かと思いきや意外なオファーを受ける。2ヶ月後に契約社員の契約が切れるから、彼らの契約を更新しない代わりに復職させると言うのだ。

 

サンドラは復職の打診を辞退する。オファーを受け入れれば、自分に投票してくれた仲間を裏切ることになってしまう。

 

会社からの帰り道。

電話で夫に報告する。

 

「苦しくなるわね」

 

話す彼女の表情は、晴れやかだ。

 

マイナスから始まった物語が、ようやくプラスに転じた。

 

 

夫や友人など、承認してくれることが当たり前の相手から得られる承認だけでは、人は自立を実感することはできない。自ら同僚と対話して勝ち取ったイーブン(8対8)という結果が、彼女に再び歩き出す勇気を与えたのだろう。

 

ちなみに、彼女の復職と天秤にかけられたボーナスの額は1000ユーロ。

日本円だと12万円くらいだろうか。

 

たった12万円のために仲間を裏切らざるを得ない世界。完全にフィクションとは言い難いのが、いまの日本の現実だろうと思う。

 

自殺や過労死、裁判を起こすだけが労働問題ではない。

 

身近な善き同僚たちは、サンドラのように静かに退場していく。

 

志を胸に、自ら負けを選ぶのだ。

 

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