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ツイブロ

求人広告のライターが、ブラック労働や就活、人材業界周辺のことなど、日常のあれこれをツイーっと書き込んでいるブログです。心に残るヘリクツをお届けします。

もし、ぼくがアイドルなら、刺されるまえに狂ってしまうだろう。

日常 日常-ネタ

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自分ががんばればがんばるほど、誰かを傷つけてしまう。

誰かの人生を壊してしまう。破滅させてしまう。

 

貴族が芸術家のパトロンになるのとはわけが違う。

 

CDやグッズにつぎ込まれるのは、庶民のなけなしの金だ。時給数百円で必死に稼いだアルバイト代を全部つぎこんで、彼らは会いに来てくれる。

 

笑顔を返す。

握手をする。

サインする。

少し会話をする。

 

でも、それだけ。

 

彼が一番欲しいものを私はあげることができない。彼は目的のものが得られずに、いつか絶望した顔で私の前から去っていく。好意が大きければ大きいほど、その後の絶望は深い。

 

あるファンの男性から時計をもらった。

 

怖かった。なぜなら私は何も返せないから。だから、受け取っても、ただ持っていることしかできない。身につけられない。

 

だから「時計を返して」と強い口調で言われたとき、実をいうと少し気持ちが楽になったかもしれない。

 

そうか、返していいんだ…。

 

 


一方的に好意を受け続けることに、人は強いストレスを感じる。

日常のなかにも、そんな場面は意外とある。

 

滑り止めと思っている企業の人事担当者が、親切にしてくれたとき。

当て馬にするために見積もった企業が、前のめりなとき。

部長に嫌われている課長が、飲み代を奢ってくれたとき。

別れ話を切り出す日に限って、彼女が甘えてきたとき。

 

…ぜったい付き合うことがない男から、時計をプレゼントされたとき。

 

上述の文章は単なるぼくの創作だ。

当人の意思を代弁しているわけではない。

 

アイドルは大変な仕事だと思う。

否定する人はたぶんいないだろう。

 

アイドルという仕事には、容姿とか歌とか踊りとか、必要なものは色々あるだろうけど、たぶん一番必要なのは「器」だと思っている。

 

それは他人からの好意を一方的に受け付けられる心の器。一方的に好意を受け続けて好意の負債が貯まっても動じない心。

 

男を弄んで転がして、本人が騙されていることに気が付きもしないくらいに幸福な嘘をつき続けることは、一部の人間にとっては容易なことだろう。

 

でも、優しい人にはそれは無理だ。

 

応えることが叶わない好意には、耳をふさがざるを得ない。

 

アイドルは接客のプロでもクレーム処理の達人でもない。近すぎる距離で対応を続けるうちに、ファンとの関係がこじれてしまう。

 

誰が悪いのでもなく、芸能活動の競争のなかでそうせざるを得ない状況に追い込まれている。ファンはファンで身銭の切り方が常軌を逸し始めていたりもする。過剰な期待感をもってしまう。

 

誰かが、アイドルは生身の女ではない。

アイドルはアイドルとして接しよう、と言った。

 

いや、アイドルは女だよ。生身の女。

 

だから彼女は時計を送り返したし、刺されて傷き、病院に運ばれた。

 

最後までアイドルをアイドルだと思っていたのは、警察くらいのものだろう。

 

 

アイドルという表記に違和感を感じる方は、女性芸能人や女性ミュージシャンにおきかえていただいても結構。それでも語りたいことの本質は変わらないと思う。

 

アイドルにまつわる文化を否定したいわけじゃない。ただ、ファンの好意を一身に背負うアイドルという仕事の業の深さについて思うところがあった。

 

もちろん、今回の事件に関して言えば、ファンの好意が敵意に変化したことによる恐怖があったであろうことは言うまでもない。