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付加価値とは何かがよくわかる一冊|『マンガでわかる!安売りするな!「価値」を売れ!』の感想 

マンガでわかる!安売りするな!「価値」を売れ!

>マンガでわかる!安売りするな!「価値」を売れ!

という本を読みました。

 

マンガでわかる!とありますが、文章の合間にマンガが入っているという仕立てで、全編がマンガというわけではありません。

 

マンガPART⇒問題提起

文章PART⇒その解説

 

こんな流れで交互に進行していきます。

 

簡単な内容要約

マンガのストーリーは、元デザイナーの奈々(26歳)が、両親の跡を継ぎ、業績不振のホテルを立て直すという内容。

 

主人公のホテル経営を題材にしながら、そのときどきで他の例も取り上げつつ、筆者、藤村さんの提唱するエクスペリエンス・マーケティング(体験型マーケティング)について解説されています。

 

あまり内容を抜き出すといけませんので、前半部分の流れだけ抽出しておきます。

 

  • お客様は安売りを望んでいるわけじゃない。
  • かといって今や「こだわり」じゃ売れない。
  • いまどき、こだわってない商品やサービスなんてない。
  • こわだり=スペックであり、ようは単なるモノ売りである。
  • 写真館は写真を売っているのではなく、思い出を売るビジネス。
  • 撮影技術はそれなりでも問題ない。
  • お客様が望むのは子どもの笑顔や我が子の成長の実感。
  • 相乗りさせる観覧車などありえない。
  • お客様は、何時間待ってでも1組ずつ乗りたいと思っている。
  • なぜお客様は観覧車に乗るのかを考えれば、相乗りがNGな理由はわかるはず。
  • いまは選ばれることが大変な時代になった。
  • 選ばれる理由のない商品は、売れない。
  • 選ばれるための価値を作り出す必要がある。
  • そのためには個性を出して、売れる売り方を考えることが重要。
  • たとえば……

 

と、まぁこんな感じで、まだまだ後に続いていきます。

 

これはあくまで表面をなぞっただけです。

本書内の詳細な解説を読むことでエクスペリエンス・マーケティングについて、より理解を深められる仕立てになっています。

 

本を手に取った理由

正直言うと、本を買う前から、筆者の言わんとすることは何となく分かっていました。

正確には分かったつもりになっていました。

 

広告業界でも、ずいぶん前からコミュニケーションデザインという考え方が提唱されており、従来の押せ押せの売り売り一辺倒では消費者は動きませんよ、という風潮はあったんです。

 

これからは生活者と一緒になって商品体験を作り上げていくような、視野の広い広告コミュニケーションが求められているのだと、頭では理解していました。

 

ただ、あえて本を手に取ったのは、そうした新時代のお客様とのコミュニケーションにおいて、表面だけで分かった気になっている部分が多いこともまた自覚していたからです。

 

価値は既存の物事の組み合わせから生まれる

筆者は、価値をつくる作業のことを「編集」と呼んでいました。

 

お客様に選ばれるために必要な独自の価値とは、世界初の発明などでは決してなく、既存の物事の組み合わせによって作り出せるということです。

 

ひとつの事例として、とある温泉旅館のプランが紹介されていました。

 

その温泉旅館が考えたのは、おしゃべり好きの主婦をターゲットにした特別プランでした。

 

・13時からチェックインOK

・持ち込みOK

・クッション・加湿器の無料貸与

・コーヒー(夜ふかしできるよう)・のど飴(たくさんしゃべるので)の提供

 

プランの詳細は、たったこれだけ。

 

13時からのチェクインと持ち込みOKは、もともと旅館全体でOKだったもので、加湿器も旅館に常備されていたもの。

クッションを新たに準備しただけで、ほとんど元手をかけることなく、このプランは準備されたとのこと。

 

これで年間300万円以上の売上UPにつながったそうです。

 

「ふーん」って感じでしょうか。

あるいは、「ほんとかよ」って感じですかね。

 

ぼくも最初はそう思いました。

でも、よくよく考えてみると、これで売上がUPした感覚が、とてもよく分かる気がします。

 

そんなサービスどこでも真似できる。本当にそうか??

おそらく、このプランに疑問を抱いてしまうのは、「こんなプラン、いくらでも真似しようと思えばできるじゃないか」ってことだと思うんです。

 

確かに真似は容易ですよね。

ただ、年間300万円以上~とあるように、改善の規模は小さなものです。大手企業がこの作戦をコピーしても、たいした事業インパクトにはなりません。

 

旅館の立地や価格帯、アクセスなども、主婦グループがちょっと遊びに来るのにぴったりの条件でなければいけません。

旅館によっては13時チェックインがネックになる場合もあるでしょう。

 

また、すでに旅館として王道のサービスで繁盛している旅館が、こういったキワモノなプラン(失礼)をわざわざ導入する意味が薄いこともご理解いただけると思います。

 

机上論ではマネできそうなのですが、実際はこれをマネして利益を出せる条件は限られており、唯一絶対とは言えないまでも、この旅館だからこそ提供できる特別なサービスに仕上がっているのだと思います。

 

それにぼくの納得感を一層深めたのは、プランの紹介文が女将の言葉で、こんな風に書かれている点です。

 

仕事、家事、子育てでストレスのたまった私(女将)の唯一の楽しみは…おしゃべり!そんな私好みのプランを作ってみました♪今回のプランを作成するにあたって、特別にご用意したおしゃべりに役立ちそうなアイテムです。

1 クッション一個

2 加湿器

3 コーヒー

4 のど飴

 

特殊な条件化で成立するプランに、女将のパーソナルな情報を付加することで、 さらに独自性のあるサービスになったというわけです。

 

ターゲットを想定し、その人たちの喜ぶプランを作り込み、そのサービスが生まれた背景も丁寧にお伝えする。

一つ一つは凡庸であっても、小さな取り組みや条件が積み重なることで、オンリーワンのサービスが生み出されるのです。

 

読みながら、何度も「なるほどなぁ」と膝を打ちました。

 

付加価値戦略は、平均点以上の企業のためのもの

売れる商品があるのではない。売れる売り方があるだけ。

 

こんな風に言われると、エクスペリエンス・マーケティングが凡庸な商品・サービスを売る魔法の杖のように勘違いしてしまいそうだけれど、そうじゃないんですね。

 

エクスペリエンス・マーケティングはあくまで+αの戦略であり、自分の売ろうとする商品やサービスの地力が、平均並か平均以上であることが前提の考え方だということです。

 

そりゃそうですよね。

いくら13時にチェックインできておしゃべりプランと言われても、ホテルがボロボロだったり、料理がまずかったら話になりません。

 

たとえば飲食店であるならば、飲食店としての最低限の価値「おいしい」は少なくとも提供できていなくてはいけません。

「当たり前の価値が提供できているだけで繁盛する時代は終わった」からこそのエクスペリエンス・マーケティングなわけです。

 

デスクでうーんとサービスについて頭を悩ませる前に、プロとしての基礎力が自らに備わっているかを問いかけてみることも大切なのかもしれません。

もちろん、そんな口酸っぱいことは、この本には書かれていませんでしたが、ぼくはそんなことを考えました。

  

差別化にこだわる企業は生き残れない

本書のなかに「役立つ人」より「好きな人」へ、という言葉がありました。

同じものを扱うならば、誰しも好きな人の方で買いたいと思うでしょ、と。

 

そして、好きになってもらうための方法とは、個を打ち出した「独自化」であると解説されています。差別化ではありません。差別化とは他に競争相手があることを意味します。

それでは価格競争に巻き込まれてしまうと筆者は言います。

 

独自化の例として、サッカー好きを公言したら人気店になった美容室の話が取り上げられていました。

 

当初、店主にはサッカー好きを公言するなんて発想はまったくなかったそうです。それは「サッカーは趣味で、美容室は仕事」だから。

そりゃそうだ。ご主人、なかなかの常識人です(笑)

 

でも実際は、サッカーファンを公言したところ、見事に集客数はUPしたそうです。

美容室であれば「カット」という価値に満足できるのは当たり前。

プラスαの個性を打ち出すことで、役立つを越えた「好き」というオンリーワンのポジションを獲得しているのですね。

 

付加価値戦略は、やみくもに取り組んでも成功しない

ただ、僕はこの話には裏があると思っています。

単に自分の好きなものを公表すれば、どんな業態でも成功するのかというと全然違うくて、これが美容院で、かつ趣味がサッカーだから成功した戦略だと推察できます。

 

というのも、美容院に行く客の不満やストレスで多いのが、店員とのコミュニケーションなんですね。

そこにだいたいの人が、それなりに会話できる話題「サッカー」が存在することで、お客さんは美容師とのコミュニケーションがめちゃめちゃ楽になることが想像できます。

 

もちろんサッカー大好きな人にとっては最高でしょうが、「日本代表の試合だけは観る」程度の人にとっても、一つ美容師と共通の話題が持てている状態からスタートできることは楽チンなわけです。

 

良い本なのですが、全体的に情緒的なアプローチで書かれているために、肝心の仕組みの部分の解説が不足気味なところがあります。

読まれる方は、多少、行間を補完しながら読んでいただいたほうが役立つと思います。

 

エクスペリエンス・マーケティングは万能ではない!?

おおむね頷きながら読んだ本書。

ただ一ヶ所だけ引っかかりました。

終盤にオーディオショップについて書かれていた部分です。

 

売上至上主義で商品に興味のないスタッフが接客するオーディオショップと音楽が大好きなスタッフたちが接客してくれるオーディオショップのどちらで商品を買いたいですか、という問い。

 

筆者は、音楽・オーディオ好きが揃う後者の店で買いたいはずだと主張していました。

 

本当にそうでしょうか?

ぼくだったら、どちらの店でも買わないかもしれません。

 

いま現実に起こっているのは、オーディオ好きの店でアドバイスを聞いた上で、価格ドットコムで最安商品を取り寄せる「賢い消費者」とやらの増加です。

ひょっとしたら、オーディオはいまやニッチな市場なので、ネットで比較検討されづらいということなのかもしれませんが…。うーむ。

「オーディオ好きの店、というコミュニティに参加できること」も商品とみれば成立するのかな…??

 

先の例にあった、ホテルも美容室も、プロダクトを販売する業種ではありません。

無形のサービスを扱う業態だからこそ、体験型のマーケティングが良く効いていたようにも見えます。

 

一方で、扱う商品自体がコモディティである家電販売店のような業態では、その真価を発揮し辛いのではないかと感じました。

消費者とのコミュニケーション、関係性づくりまでは成功したとしても、実際に購入してもらうのはかなり難しいように感じてしまいます。

 

美容室や宿泊のような、世に2つとまったく同じものが存在せず、提供者の信頼性が問われる商品・サービスを扱う場合は、まだ多少なりとも突破口はありそうなのですが、家電のように元々信頼性の高い既製品を売る場合は、同じ手は通用しないんじゃないかなぁと思ってしまいますね。

 

通販番組が企業やブランドとコラボして、通販限定モデルを作って売っているのが良い例じゃないでしょうか。

同じ商品だとネット通販に負けちゃいますからね。アパレルなら良質なユーズド品もありますし…。

 

この辺りについては、まだ僕自身の考えが深まっていないところです。 

 

さいごに(消費者として、エクスペリエンス・マーケティングについて思うこと)

エクスペリエンス・マーケティングの考え方は、大きな組織よりも個人商店のような環境のほうがやりやすいのかもしれません。

 

「個を出す」仕事のやり方を実践するのは、組織が大きいほどリスクがありますし、意思決定に時間がかかってしまいそうです。

だからこそ、中小企業が99%の日本では、とっても大切な考え方なのだと思います。

 

ただ、ふだんの自分自身の消費行動をふりかえってみると、情緒的な消費を善しとするタイミングと何をどう言われようが情緒的な消費を一切しないフェーズがはっきり分かれているように思います。

 

たとえばUSJに行ったら情緒的な消費は自動的にONモードになりますが、新しいパソコンを買うときは情緒的な消費をする気分はぴしゃりとOFFされます。

スペックと価格を比較して冷徹に判断をくだすでしょう。

 

エクスペリエンス・マーケティングはとても素晴らしい。

ただ、明らかにそれが効かないフェーズはあるだろうな、ということは本書を読みながら何度も感じました。

しかも、効かないフェーズは企業側の努力などとは関係なく、最初からOFFなものはOFFだし、ONなものはONであるということです。

 

ちなみに、ぼくがこの本を買った理由の一つは、筆者のブログをいつも読んでいる安心感から。

 

ご覧いただければ分かる通り、決して安い本ではありませんが、ブログを通じて本の中には価値ある情報が詰まっているはずだ、という期待と信頼があったからこそ、あっさりと購入に至りました。

 

"安売りするな!価値を売れ!"

 

似たようなことを書いている書籍は、探せば出てきそうなんですけどね。しかももっと安い価格で。

でも、ぼくが買ったのはこの本でした。それが現実。もちろん満足しています。じゃなきゃ、こんなに長々と文章なんて書きません。

 

僕にとっては、この書籍自体が、エクスペリエンス・マーケティングを見事に体現している好事例にも感じられました。

そういう意味でも説得力のある一冊だと感じます。 

マンガでわかる! 安売りするな! 「価値」を売れ!

マンガでわかる! 安売りするな! 「価値」を売れ!

  • 作者: 藤村正宏,矢尾なおや
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2016/01/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
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